犬が星見た

ロシア語で宇宙関連ニュースを拾い読みします。

「新たなロシア連邦宇宙計画が政府で承認された」

 今回は、宇宙系メディア、コスミーチェスカヤ・レンタより。3月17日付の記事《Новая Федеральная космическая программа утверждена в правительстве》です。

 

今年の3月に承認された、新連邦宇宙計画についてのです。主に予算関係について、わかりやすく紹介されています。

 

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「新たな連邦宇宙計画が政府で承認された」

3月17日、昨年12月に3度目の改定がなされた新たな連邦宇宙計画(以下ФКП)が、メドヴェージェフ首相によって承認された。本案は2025年までの原案が作成されたのは長官をオレグ・オスタぺンコ氏が務めていた2014年の中頃であったが、当時、宇宙開発に分配される予算の規模はおおよそ2.4兆ルーブルと見込まれていた。しかし、同年の秋、当局はロスコスモスにプロジェクトの修正を指示。2015年から長官の座に着いたイーゴリ・コマロフ前長官のもとで改定されたФКПにおいて、予算は2兆ルーブルにまで縮小された。そしてまさに今週、とうとう基本予算1.4兆ルーブル、2021年以降の追加予算115億ルーブルと大幅な削減がなされたのである。

予算が毎年均等に分割されることはない。ФКПにおける宇宙開発予算の1年あたりの金額は、2016〜2018年はおよそ105億ルーブル前後の水準が保たれると予想されており、その後2025年までは毎年180億ルーブル付近まで増額されるとされている。

残念ながら、 今後10年間でどのようなロケットが研究開発、あるいは打ち上げられるのかをФКПに基づいて予想することは難しい。むしろ、計画案自体は欠陥だらけで、とても信用などできない。それでもなお、ロスコスモスという組織に費やされる費用を他と比較すれば、宇宙開発がロシア政府にとっていかに大きなプライオリティを持っているかは明らかである。以下はФКП2016-2025における予算の一覧である。なお、打ち上げ費用はそれぞれの分野ごとに計上されている。

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上の表から、科学研究費と試作建設費に予算全体の72%が使われていることがわかる。残りの予算は表にないその他の支出に回される。ロスコスモスにとって最大の支出項目は実用的宇宙開発である。有人宇宙飛行はそれに続く形だが、実際には有人宇宙飛行のプライオリティはより低いとされる。この予算と優先度の誤差が起きる理由は国際的プログラムへの参加、つまり国際宇宙ステーションの存在である。ISSの運用に際してロスコスモスは、有人宇宙飛行のそれと比べて2/3、あるいは研究費全体と比べれば、なんと1/4以上もの金額を費やしていることになる。ISSを除けば、ロスコスモスにとって有人宇宙飛行は優先度としては4番目に当たる。

ロスコスモスにとって重要なのは、従来通りの実用的宇宙開発を継続することである。例えば、衛星通信事業においては、警視庁や交通省、国防省、ロシア水文気象環境監視庁など国家機関を始め、ロスアトム、ガスプロム宇宙システム、ガスプロム宇宙通信といった組織が主要な取引先であるが、興味深いことに、市場原理で動く最後の二企業が86%もの割合を占めているという。遠隔地球調査事業においても同様に、ガスプロム宇宙システムの発注が全体の55%を占めている。それ以外の事業についても、国防省を含む様々な象徴及びその他の国家機関による受注がある。

科学研究調査に対する予算分配は、客観的に見ても決して十分ではなく、10年間で2億ルーブル以下である。(おおよそ、火星探査機キュリオシティー1台分)そのうちで最も大きく予算が割かれるのは、月の調査研究である。次点が、スペクタルRGやスペクタルUFといった類の宇宙天文台の建設だ。しかし、いずれにせよ、大多数のプロジェクトがФКПの定めるところの「打ち上げ試験」の段階にまで到達しないことは明らかである。

表には記載されないが、これら以外にもそれなりの額がエンジン開発や原子力エネルギー利用研究に分配されている。なお、原子力ロケットの打ち上げは2025年よりは後になりそうだ。

ФКПによると、ロケット事業は四つの軸に沿って進められる。一つ目は、新型ロケット《フェニックス》の開発。フェニックス型ロケットは主に、有人宇宙飛行及び高軌道衛星打ち上げに使用される。二つ目にアンガラ A5ロケットの近代化である。これはヴォストーチヌィで運用するための改造という意味も含んでいる。また、従来のアンガラA5を大型化し、35トンまで搭載を可能にする、アンガラA5Bの開発も始まる。なお、アンガラA5Bロケットとフェニックスロケットの打ち上げ試験は2025年以降の開始が予想される。三つ目は新たな軌道間輸送機の開発及び近代化であり、KVTKの運用は2024年を予定している。最後に四つ目が、連邦宇宙計画に沿って、少ないリソースではあるが、より大型の打ち上げ機開発を目的とした研究を継続することである。

 

石油安に始まったロシア経済の傾きは、ロシアの宇宙開発にも小さくない影響を与えていることがわかります。米ソがともに国家の威信をかけた冷戦時代、莫大な資金をつぎ込みまくりながら人類の宇宙開発が発展してきたという歴史を考えると、これからの時代なかなか今までのようなペースで進歩していくことは難しいのかもしれません。打ち上げには依然として膨大な費用が掛かりますしね。だからこそ、イーロン・マスク氏をはじめとした民間宇宙ベンチャーに、こういった状況を打破してくれることを期待せずにはいられないわけですが。